第壱回 上杉謙信・敵に塩を送る


兼続「記念すべき第一回目は、僕達の御屋形様、越後の龍こと上杉謙信様の逸話
   を紹介させて頂きます」

景勝「謙信殿は俺の養父にあたる人だ。異常に強い御人で、戦は全戦全勝、負け
   無し。強くをくじき、弱くを助ける…まさに漢(おとこ)の中の漢!
   …といった感じだな」

兼続「景勝殿は御屋形様の養子ですけど、ちゃんと血の繋がりがあるんですよね」

景勝「…俺の母上が謙信殿の実姉にあたる。
   要するに、俺は謙信殿の甥になるわけだ」

兼続「ふ〜ん、そのわりに景勝殿はただのヘボ将ですよね」

景勝「ヘボッ!?」

兼続「本当に血、繋がってるんですか?事実を捏造してるんじゃないですか?
   景勝殿、アホなんですか?」

景勝「繋がってるし、捏造してないし、アホじゃないよ!!」

兼続「ちっ、答えやがりましたか。景勝殿はアホだから、三つも疑問付を並べたら
   一つくらいトチると思ったんですが」

景勝「三つ『も』!?『も』!?たった三つで『も』!?
   与六!お前馬鹿にしてるだろ、俺の事!!」

兼続「さぁ?はっきりとは言えませんが、馬鹿にしてるのは確かです」

景勝「はっきり言われたアッ!!」


これは、甲斐の武田信玄殿が、
駿河の今川氏真殿に同盟の破棄を告げたときのお話ですね。

今川「武田さんムカつくよねー。『今川さんちって、イメージ的に肥えてるから、
   同盟なんか組んでたら兵糧イッパツでなくなりそうじゃん。
   だから、もう仲良くしない!絶交だ!』とか言ってきたんだよ」

今川家臣「マジですか?ムカつきますね、そりゃ」

今川「俺、どちらかと言うと穏和な方だけど、さすがにぶちギレ。
   武田さんと戦争でもしちゃおうかな。」

今川家臣「でも、ただバカみたいに戦争するより、
   精神的にチクチク攻撃した方が面白いですよ、きっと」

今川「チクチク?精神的に?どうやって?」

今川家臣「そうですね、たとえば…。同盟国の相模の北条氏康殿とグルになって、
   武田さんに『塩やんない!』って言うとか」

今川「なんか面白そう!よし!そーしよ!」

…塩と言えば、水と同じく人間に必要不可欠なものの一つですね。
天竺の僧侶の方も、断食などの修行の際、水と塩だけは持って行く
…とお聞きしました。
今川殿もなかなか陰湿な嫌がらせをしてきやがります。



これにはさすがの武田殿も困ってしまいました。

武田家臣「殿!塩が足りません!」

信玄「知らん!俺に言うな!」

武田家臣「君主なんだから、打開策の一つや二つ、絞り出して下さいよ!」

信玄「あーうるさい!自分の汗でも舐めてろ!」

武田家臣「無理っす!」

信玄「なら黙ってろ!」

…あーあ、荒れてますねぇ。
結婚のご予定がある姫君やその父上は『婚約する家に塩があるかどうか』を
結納する前に、しっかり確認して下さいね。
だって嫌でしょ?
『嫁に行った娘が、塩分不足で逝去した』…とか。



さて、この話をめざとくも聞き付けたのが、僕達の御屋形様、上杉謙信様です。

知的家臣N「……という訳で、武田さんが困ってるらしいですよ」

マッチョ家臣K「いいじゃん、困らせておけよ。俺、武田嫌いだもん」

謙信「しかし、塩を絶つのは武士にあるまじき卑怯な振る舞いで…」

親族家臣N「今こそチャンスです!この機に武田を攻めましょう!」

謙信「いや、でもこれは末代まで武門の恥が…」

マッチョ家臣K「そうだそうだ!やっちまおうぜ!」

謙信「ホラ、越後は海に面した塩の産地だし…」

親族家臣N「そうと決まれば早速徴兵を行いましょう!」

謙信「お…お前等!集団で俺を無視すんなよ!せっかく話してんのにさ!聞けよ!」

知的家臣N「じゃあ、新しい騎馬隊の編成を考えなければいけませんね」

謙信「だから聞けってば!
   っていうか聞いて下さい!お願いです!無視しないで下さい!」

知的家臣N「おや、殿?いたのですか?」

謙信「Σ( ̄□ ̄」

マッチョ家臣K「存在感無いから、全然気が付かなかったぜ」

謙信「Σ( ̄□ ̄」

親族家臣N「いてもいなくても、あまり変わりませんけどね」

謙信「Σ( ̄□ ̄」


…なんだか御屋形様、馬鹿にされてまくってますが、まぁ半分史実ですので仕方が
ありません(通称『みんなが俺の言うこと聞いてくれないんだもん、と吐かした
謙信が一人いじけてストライキ事件』)。
その後、甲斐には越後から大量の塩やら魚やらが運ばれてきました。
もちろん武田さんちは大喜び&大感動。
「味方に欲しい武将だ!」とか言ったそうです。
身のほどを知れってカンジですね(笑顔)

語り:直江兼続


  モドル