1.  v


第拾回 藤吉郎の半兵衛勧誘記(前編)


時は1564年。暑い暑い夏のことです。
木下藤吉郎(豊臣秀吉)殿は織田信長殿の命により、浪人の竹中半兵衛殿を
勧誘する事になりました。半兵衛殿は元々斎藤家臣なのですが、嘲笑された事に
キレたり、城を奪ったり、まぁ色々とあったようで…この当時浪人だったわけです。
…ということで、ここは半兵衛殿の家。


藤吉郎「ねぇ半兵衛。いいかげんさぁ、俺の軍に来てくれない?
    俺、今日で勧誘五日目だよ?」

半兵衛「………すみません藤吉郎殿。あなた、いつこの私を勧誘したのですか?」

藤吉郎「え?四日前からずっと勧誘しにきてるじゃん。今だってそうだよ?」

半兵衛「…四日前といえば…藤吉郎殿が私の家に突如押し入ってきて
    『初対面の人同士は食事すると早く親しくなれるらしいよ』などと
    もっともらしい事を言い、私の育てたトマトを全て食べた日ですよね」

藤吉郎「そうそれ。それが勧誘

半兵衛「…これのどこが勧誘なのですか?」

藤吉郎「最初は仲良くならなきゃじゃん。ホラ、帰り際にチョコレートあげたし…」

半兵衛「いりません。特に溶けかかったベトベトチョコレートはいりません。
    この日の日記には
『猿が押し入って来て食べ物を荒らされた。
    森には食べられるものが少ないらしい』
と書きました」

藤吉郎「う〜ん…今から考えると、この日の勧誘はちょっと失敗かもね。
    でも、三日前はいい感じだったでしょ?二回目の勧誘」

半兵衛「…三日前といえば…朝っぱらから私の家の中に『誠実・実績・責任感!
    理想の上司木下藤吉郎』とかいうクレヨンで描いたと思われる手作り
    選挙風ポスターを壁から床まで余すところ無く貼っていった日ですね」

藤吉郎「うんそう。それが勧誘。やっぱりさ、俺の顔とか覚えて欲しいじゃん。
    あれ?そういえばポスターは?無いじゃん」

半兵衛「その日のうちに片っ端から剥がして廃品回収に出させて頂きました。
    そしたらポスターの裏から出てくる出てくる、
こんぺいとう。
    どんな手品ですか、あれ。いや、ある意味大爆笑でしたけど」

藤吉郎「美味しかった?」

半兵衛「食べるわけ無いでしょう。クレヨンがくっ付いて、ひどく気の毒な
    食べ物に
なっていましたよ。この日の日記には
『猿が押し入って来て
    家の中を荒らされた。猿の惑星は現実になるつつある』
と書きました」

藤吉郎「そっかぁ…でもさ、二日前は心動いたでしょ?」

半兵衛「…二日前といえば…『三国志の諸葛亮孔明は、劉備玄徳の勧誘に三回
    目で応じたらしいよ』と書いた紙が壁に貼ってあった日ですね」

藤吉郎「うん。
その日暑かったから早く帰りたかったの

半兵衛「……藤吉郎殿、あなた本当に私を勧誘する気があります?」

藤吉郎「もちろん。顔は見せなかったけど文章全体に
誠意が感じられるよね

半兵衛「そう言う言葉は辞書で調べてから使ってください。ちなみに、この日の
    日記には
『最近の猿は文字を書く。文明開化の音がする』と書きました」

藤吉郎「でもさ、こんなに暑いのに毎日半兵衛の所に来る俺ってエライよね。
    戦国えらい人グランプリ、俺。この日の時点で俺の誠実さと雑学の多さに
    脱帽かと思われるけど、極めつけは昨日!もう完璧だったよね?」

半兵衛「…昨日と言えば…『木下藤吉郎は素晴らしい方なので仕えるべきである。
    それが私から君へのプレゼントだ。by
木下とあわてんぼうのサンタクロース』
    と書いた紙と大福二つが玄関に置いてあった日ですね」

藤吉郎「凄いね、とうとうサンタまで俺を推薦。これはもう仕官するしか!」

半兵衛「あなたのそういう態度が腹立ちますよね。この日の日記には
    
『いい加減、山に帰すべきではないのか』と書きました」

藤吉郎「ちなみにさぁ、特別サービス紅白大福二個セット食べてくれた?」

半兵衛「食べましたよ。
あんこが砂でジャリジャリの新触感でしたけど

藤吉郎「俺の軍に来たらさ、毎日あの大福食べれるよ?来ない?」

半兵衛「
私を殺すおつもりですか?ところで、先程から家の前で
    マッスルドッキング(筋肉マンパート)の練習をしている人は誰ですか?」

藤吉郎「あぁ。あれは柴田勝家さん。あの人も織田家家臣だよ。とにかく
    己の肉体に目がなくてね。今は更なる高みを目指して頑張ってるみたい」

半兵衛「それと、先程から風呂場で『この木材は明応元年豊後産のヒノキだな。
    形の滑らかさと木目の(以下略)』とか言って
頬擦りをしてる人は誰ですか?」

藤吉郎「あぁ。それは丹羽長秀さん。あの人も織田家家臣だよ。とにかく
    建築関係に目がなくてね。つねに木材から火が出るほど頬を擦りつけてるよ。
    そんな事より半兵衛。態度ハッキリしてよ。家臣になるの?ならないの?」

半兵衛「だから何度も断わってるじゃないですか…。というか、今の二人を
    見ていたら
意地でも浪人でいてやるという覚悟が芽生えました

藤吉郎「う〜んしょうがないなぁ。じゃあ明日最終兵器連れてきちゃうよ。良い?」

半兵衛「良いですよ、別に。私は何があっても動じませんから

藤吉郎「よーし、分かった。明日楽しみにしててねー!!」


さて、この時点での勧誘回数はすでに五回。しかし半兵衛殿、随分と意地っ張な
方のようで、まだ首を縦に振ってはくれません。仕方が無いので、半兵衛殿が首
を振るまで頑張って太閤様には勧誘を続けていただこうと思います。
めちゃめちゃ暑いみたいですけど別に問題無いですよね。だって猿だし(邪)
それでは皆さん、また後編でお会いしましょう♪

語り:直江兼続


景勝「…あのさぁ、与六」

兼続「なんですか景勝殿?」

景勝「これって確か逸話集十回記念だよな?…なんで俺の逸話じゃないの?
   『今回の主役はきっと俺だ!』と思って、かなりオシャレしてきたんだが…」

兼続「はぁ?甘ったれてんじゃ無いですよ。何で景勝殿の逸話なんぞ紹介しな
   くちゃいけないんですか?っていうかスペースの無駄でしょう?」

景勝「ヒデェ!無駄とまで言われたし!もうダメ、俺立ち直れない!」

兼続「あのですねぇ、景勝殿。立て続けに僕が
悪態をつくんで、この程度の事
   でいちいちヘコんでたらお話になりませんよ?もっとストレス耐久度を
   上げて物事に挑んでください」

景勝「すでに数値MAXだよ!もし信長の野望に『ストレス耐久度』パロメーターが
   あったら、徳川家康と並んで堂々の一位になる自信すらあるよ!」

兼続「う〜ん…仕方ないですねぇ。じゃあ次回『逸話集十一回記念』という事で
   景勝殿の逸話を紹介させてあげますよ」

景勝「『十一回』…?
いや中途半端過ぎだろ!どこがどう記念番号なの!?
   微妙に煮え切らない番号で逆に気持ち悪いよ!」

兼続「荒木飛呂彦(ジャンプ漫画家)の巻頭カラーみたいで良いじゃないですか」

景勝「…うむむ…そう言われるとそんな気も…っていうか今回の逸話は前後編
   だから、次回も竹中半兵衛の逸話が続くんじゃないのか!?」

兼続「ピンポーン☆すると景勝殿の逸話紹介は再度延期ですね!残念ながら!
   いやぁ、全然気がつきませんでしたね!あはは、本当に残念だこりゃ!

景勝「だ、大爆笑!?ダメ!もうダメ、俺立ち直れないッ!(T△T)

※数値MAXを超えてなお、景勝のストレス耐久度は上がり続けているようです。


  モドル